建物明渡請求の流れ

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賃料不払いや用法違反に基づく契約解除、建て替え・自己使用の必要性などに基づく契約終了など、建物の明渡請求に至る理由はさまざまです。しかし、どのケースでも共通するのは「適切な法的根拠の選択」、「適切な手続の選択」及び「十分な証拠の備え」が重要だという点です。

本稿では、滞納・違反類型別の対応フロー、借地借家法の「正当事由」の考え方、内容証明から訴訟・強制執行までの手続、期間と費用の目安、準備資料を整理します。実際の解決手順は契約内容・事実関係などで変わります。個別案件については、早めにご相談ください。

建物明渡請求の法的枠組み—明け渡し請求の典型例

建物の明渡請求が法的に認められる典型例は次の4つです。

  • 賃料不払い・用法違反などの債務不履行に基づく契約解除(民法)。解除の可否は「信頼関係破壊の法理」により判断されます。この法理は、賃貸借契約が継続的な信頼関係を基礎とする契約であることから、契約違反があった場合でも、その違反の内容や程度に照らし、当事者間の信頼関係が回復不能な程度にまで破壊されたと評価できない限り、契約解除は認められないとする裁判実務の考え方です。たとえば、賃料不払いの場合には滞納月数・金額・反復継続性・弁済見込みなどにより、また用法違反の場合は用法違反の程度・従前の改善要求の有無や頻度・改善可能性等を総合評価します。
  • 無断転貸:貸主の承諾なく、第三者に又貸しをしたり、賃貸借部分の一部を間貸ししたりした場合、無断転貸として解除事由となります。ただし、実務では、形式的に無断転貸があったというだけで解除が認められるわけではなく、その態様が貸主との信頼関係を破壊するほどの「背信的行為」に当たるかが問題となります。
  • 期間満了時の更新拒絶・解約申入れ(借地借家法)。この場合は契約を終了させるための「正当事由」(借地借家法28条)が必要です。これは、借主人の居住や営業の安定を保護する観点から、貸主の一方的な都合だけで契約を終了させることができないようにするための制度です。正当事由の有無は、貸主・借主の使用の必要性、建物の利用状況、賃貸借の経過、交渉経緯、立退料の提示などを総合考慮します。
  • 定期建物賃貸借の期間満了(同法38条)。普通賃貸借契約と異なり、定期建物賃貸借契約においては更新という制度はなく、再契約が成立しない限り、借主は契約終了時に明け渡しをしなければなりません。契約終了に、普通賃貸借契約のような「正当事由」は必要ありません。

建物明渡が認められる正当事由とは

更新拒絶や解約申入れの可否は「正当事由」の有無で判断されます。「正当事由」の存否を判断する際の考慮要素は次のとおりであり、これらの事情が総合的に判断されます。

  • 貸主・借主それぞれの使用の必要性(自宅・事業の必要性、代替可能性)
  • 建物の使用状況・老朽化・近隣との関係(建替え計画の具体性、耐震性、違反是正の必要性)
  • 賃貸借の経過・交渉経緯(更新回数、貸主側の事情説明や提案の有無)
  • 経済的補完(立退料の提示額・内容)—立退料は必須ではありませんが、事由を補完する要素として考慮され、例外的な事例を除き、ほとんどの案件で立退料の支払いを要します。

正当事由を証明するためには、十分な証拠をそろえる必要があります。たとえば、老朽化や耐震不足を理由とする場合には、老朽化を示す調査報告書、耐震診断書。耐震補強工事の見積書などが必要です。

自己使用(建て替えをした上で高度利用)を理由とする場合は、建て替えを要することについての調査報告書・開発計画やその設計書・借主のための代替物件に関する資料・従前の交渉経緯に関する報告書などが重要となります。

また、立退料の適正額を証明するために、不動産鑑定士の意見書や鑑定書が有用となる場合もあります。

【ケース別】賃料滞納と用法違反の対応フロー

賃料滞納への対応

  • 事実の確定:賃料台帳や通帳で滞納月数と金額、過去の遅延履歴を確認。その際、充当関係について整理し、正確な滞納額を計算する必要あり。
  • 催告(相当期間の設定):内容証明郵便で期限を区切って支払を求め、「期限内に履行しない場合は新たな通知をせずに契約を解除する」旨を明示した催告書を送付。内容証明郵便は郵便受けに投函されず受取人側にて対面で受け取る必要があるため、内容証明郵便では受け取らない可能性があるケースでは、特定記録郵便(郵便受けに投函され、投函された事実を郵便局が証明してくれる)にても同時に送付する。
  • 契約解除:催告書には期限徒過の場合に当然解除するとの意思表示を記載するため、期限内に支払いがなかった時点で契約の解除が成立する。そこで、任意の明け渡しについて、賃借人と交渉を行う(交渉の余地がないことが明らかな場合には、交渉はせずに訴訟提起する場合もあり。)。貸主において早期解決を望む場合などには、交渉時において一定の引越料の支払いを提示し、任意明け渡しを促す場合もある。
  • 訴訟提起:明け渡し訴訟を提起する。判決を取得し、強制執行によって明け渡しを実現する場合もあるが、早期解決を望む場合や強制執行に多額の費用がかかることが予想される場合などには、訴訟において話し合いを行い、和解によって明渡しが実現される場合もある。この場合、滞納している賃料の一部あるいは全部を免除する場合や、借主に資力がない場合には一定の引越料の支払いをすることもある。

「〇か月の滞納で必ず解除できる」といった一律の基準はなく、滞納額、従前からの賃料支払いに対する誠実性、借主の資料など事情により契約解除が認められるかの判断が分かれます。

用法違反・迷惑行為

  • 違反内容の記録:写真・動画・騒音測定・近隣の陳述・警察通報記録など客観的資料を収集。
  • 是正要求:具体的な行為・期限・再発時の解除方針を明示した内容証明郵便で是正を要求。
  • 再発や是正をしない場合:内容証明郵便により解除通知をした上で訴訟提起。

無断転貸

  • 無断転貸の記録:郵便受けや看板の写真・内部の動画・近隣からの聴取・ホームページなどのインターネット上の情報確認・営業許可書やの名義の確認・登記情報の確認など無断転貸についての客観的資料を収集。
  • 内容証明郵便による解除通知:無断転貸の場合、催告は必要なく、直ちに解除を通知することができる。もっとも、改善要求をして、転貸解消をするか様子を見るとの選択肢もあり。
  • 訴訟提起:内容証明郵便により解除通知をしたのちに訴訟提起。契約当事者である借主だけでなく、転借人も被告にする必要あり。

老朽化や耐震不足による建て替え・自己使用(高度利用)

  • 早期の対話と情報提供:借主に対し建て替えの必要性を具体的に示し、退去してもらいたい時期を早めに伝える。代替物件の提案や移転費用等の条件を検討し提案。
  • 正当事由の整理と交渉:双方の使用の必要性、建物の状況、高度利用の必要性・相当性、適切な立退料の金額を検討し、契約を終了させるだけの正当事由があるかを確認。そのうえで、借主と本格的に交渉。
  • 訴訟等の提起:交渉が不調に終わった場合には、訴訟提起(事情によっては、いきなり訴訟にせず、調停を提起して話し合いを継続する場合もあり)。

内容証明郵便の送付から強制執行まで(賃料滞納の場合)

事前調査
主な手続

契約書及び賃料台帳の確認

ポイント

過去の賃料支払状況を確認するとともに、賃料の充当関係を整理し、正確な滞納金額を把握する。

内容証明郵便発送
主な手続

内容証明郵便で支払いの催告と解除の意思表示

ポイント

滞納賃料賃料を正確に記してその支払いを催告するとともに、期日内に支払いがない場合には、改めて通知をすることなく契約を解除するとの記載をする。

保全の検討
主な手続

占有移転禁止の仮処分の申し立て

ポイント

借主が第三者に占有を移転する可能性がある場合には、それを防止し占有を固定するために、仮処分の申し立てを行う。

訴訟提起
主な手続

建物明渡請求訴訟(未払賃料の支払い請求を併合する)

ポイント

明け渡しの判決を目指すが、話し合いによる解決(任意退去による和解)も並行して検討する。

任意退去の要請
主な手続

判決あるいは和解に基づき任意退去の時期や手順について交渉。

ポイント

和解の場合には退去時期が明確に約束されているが、判決の場合には直ちに退去が原則なので、借主と退去時期について交渉する。

強制執行
主な手続

明渡しの強制執行(催告→断行)

ポイント

裁判所に明渡しの強制執行を申し立てる。執行官及び執行補助者と事前に協議する。借主に対する明渡し催告から断行(実際に強制的に退去を実行する)までの間に、任意の明け渡しについて引き続き交渉し、できるだけ断行を避けるようにする。

賃料滞納による解除の場合であっても、実力行使(無断開錠・荷物搬出・電気ガス停止など)は「自力救済」として禁止されています。また、トラブルのもとになり、かつ不法行為として責任を問われるリスクがあります。したがって、以上のような法的な手続きを着実に進めていくことが重要です。

保全手続き

賃貸借契約を解除した後、貸主は明渡請求訴訟を提起することになりますが、その際に問題となるのが、借主が第三者に占有を移してしまうことです。このような事態を事前に防止するために使用される保全手続が、「占有移転禁止の仮処分」です。

これは、裁判所の決定により、借主人が賃借している物件の占有を第三者に移転する(全くの第三者を住まわせたり、関係ない会社の事務所にするなど)ことを禁止し、将来の明渡判決の実効性を確保するための手段です。

また、この手続の中で、賃借物件の内部を確認できますので、訴訟提起前に物件内部の状況を把握できるというメリットもあります。

この仮処分を裁判所に認めてもらうためには、被保全権利(解除を前提とする明渡請求権が存在すること)と保全の必要性(賃借物の占有が第三者に移転されるおそれがあることなど)を疎明(一応もっともらしいと認められる程度の証拠を示すこと)する必要があります。

また、一定額の担保を供託する必要があります。しかし、悪質な借主で占有移転が予想される場合には、この仮処分を得ておく必要があります。

明渡請求にかかる期間と費用の目安

期間の目安

・賃料滞納による明け渡し請求の場合

3か月から1年程度(滞納や解除の有効性に争いがない場合)

6か月以上(滞納や解除の有効性に争いがある場合)

・用法違反・迷惑行為を原因とする明け渡し請求の場合

6か月から1年程度

・無断転貸を原因とする明け渡し請求の場合

6か月から1年程度(無断転貸の事実自体に争いがない場合)

6ヶ月以上(無断転貸の事実自体に争いがある場合)

・老朽化や耐震不足による建て替え・自己使用(高度利用)を原因とする明け渡し請求の場合

1年以上

費用の目安

・賃料滞納による明け渡し請求の場合

  • 弁護士費用:着手金20万円~(滞納や解除に争いがない場合には、賃料の1か月分程度が目安)
  • 報酬金:20万円~(同上)
  • 訴訟申立費用:訴訟印紙代・郵券代
  • 強制執行費用:強制執行の弁護士費用(10~20万円)・申立印紙代・郵券代・執行補助者費用

・用法違反・迷惑行為を原因とする明け渡し請求の場合

  • 弁護士費用:着手金30万円~
  • 報酬金:30万円~
  • 訴訟申立費用:訴訟印紙代・郵券代
  • 強制執行費用:強制執行の弁護士費用(10~20万円)・申立印紙代・郵券代・執行補助者費用

・無断転貸を原因とする明け渡し請求の場合

  • 弁護士費用:着手金30万円~
  • 報酬金:30万円~
  • 訴訟申立費用:訴訟印紙代・郵券代
  • 強制執行費用:強制執行の弁護士費用(10~20万円)・申立印紙代・郵券代・執行補助者費用  

・老朽化や耐震不足による建て替え・自己使用(高度利用)を原因とする明け渡し請求の場合

  • 弁護士費用:着手金40万円~(滞納や解除に争いがない場合には、賃料の1か月分程度が目安)
  • 報酬金:40万円~(同上)
  • 訴訟申立費用:訴訟印紙代・郵券代
  • 強制執行費用:強制執行の弁護士費用(10~20万円)・申立印紙代・郵券代・執行補助者費用

上記はあくまでも一般的な基準を示したものであり、実際の弁護士費用やその他の費用は契約の物件や賃料の規模・契約終了事由・終了事由が争われる可能性の程度などによって変わります。

また、執行補助者とは、執行官が強制執行を行う際に、その作業を専門的・物理的に手伝う者(民間の業者)ですが、明け渡しの強制執行の場合、物件の規模や内部の動産の量などにより、30~100万円程度の費用がかかることが多いです。

よくある質問(Q&A)

Q
何か月滞納すれば解除できますか?
A

一律の基準はありません。契約の内容・滞納月数・金額、過去の賃料支払いに対する誠実性、弁済能力などから、当事者間の「信頼関係が破壊されたか」を総合判断します。

Q
滞納が発生した場合、すぐに解除してよいですか。
A

原則として、支払いの催告する必要があり、いきなり解除することはできません。催告期限を定め、期限までに支払いがなければ、解除ができることになります。実務上は、催告の内容証明郵便に、「期限までに支払いがなされない場合には、改めて解除通知をすることなく、契約を解除します」と記載をすることによって、再度解除の通知を出さなくても解除の効力が発生するように記載します。なお、滞納金額が多額の場合や過去に何度も滞納と返済を繰り返しているなど、信頼関係の破壊が著しい場合には催告をしなくても解除できる場合もあります(ただし、慎重な判断が必要です。)。

Q
残置物は同意なく捨ててもよいですか?
A

任意退去の場合でも、処分権限を明確にする合意がないまま処分すると紛争化し、場合によっては損害賠償請求を受ける可能性があります。任意退去の際に、残置物に関して所有権放棄に関する同意書を取得しておくと紛争化を防ぐことができます。

Q
耐震不足を原因として明け渡しを請求する場合、どのような資料が必要ですか?
A

耐震不足を原因として契約を解約、あるいは更新拒絶する場合に、明け渡し請求に「正当事由」があることを証明する必要があります。一般的には、耐震不足であることを証明する耐震診断書、耐震補強が不可、あるいは著しく困難であることを示す調査報告書、耐震補強をして利用を継続することが経済的に不合理であることを示すための耐震補強工事の見積書などの資料を用意します。

Q
土地の高度利用とはどういう意味ですか?
A

建物の建替えや再開発など、土地をより有効に使う場合を意味します。高度利用をするために明け渡し請求をすることも「正当事由」がある限り認められます。ただし、単なる収益増加を目的するだけでは正当事由として不足であり、高度利用をする必要性(現在の利用が経済的合理性を欠くことなど)、借主側の使用の必要性が高くないこと、代替物件発見の容易性などを証明する必要があります。また、老朽化や耐震不足を理由とする場合に比して、立退料の金額が高額になる傾向にあります。

まとめ—明渡請求の要は「法的根拠の検討」「適切な手続の選択」「十分な証拠」

建物明渡請求は、事前に法的根拠を十分に検討した上で、適切な手続に沿って着実に進めて行く必要があります。特に無断転貸・用法違反を理由とする解除の場合には、事前にそれらの事実を証明するための十分な証拠を準備しておく必要があります。

また、「正当事由」に基づく契約解約・更新拒絶の場合には、正当事由を裏付けるための資料作りが必要になります。事前の準備を怠り、場当たり的に進めると、明け渡し請求が認められなかったり、多額のコストがかかったりするリスクがあります。

したがって、紛争の早い段階から、建物明け渡し案件を多数扱っている当事務所にぜひご相談ください。

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