近年、未払い残業代をめぐるトラブルが急激に増加しています。数多くの業種で多額の未払い残業代請求が行われており、どのような業種の企業にとっても決して他人事ではありません。
また会社を経営していれば、残業代だけでなく、未払退職金や給料の未払いなど労務上の様々なトラブルが起こる可能性があります。
以下では未払い残業代や退職金、未払いの給料問題のリスクと解決方法をご説明します。
1.裁判で未払残業代を請求されるとリスクが高くなる
未払い残業代を請求されるとき、当初は内容証明郵便で請求されるのが通常です。しかし話し合いで解決できなければ訴訟(あるいは労働審判)になります。
残業代請求訴訟で判決が出ると「遅延損害金」と「付加金」が加算されることに注意が必要です。
遅延損害金は残業代や給料を支払わずに放置したことによる損害金で、従業員の在職時には年6%、退職後には年14.6%もの割合で加算されます。付加金は、残業代不払いの際に発生するペナルティであり、払わなかった残業代と同額になります。
つまり判決で未払い残業代の支払いを命じる判決が出るときには、本来の残業代の2倍プラス遅延損害金(6%または14.6%)の支払いが必要となるリスクがあります。
2.給料、残業代、退職金の時効
給料や残業代、退職金の請求権には「時効」があるため、従業員が請求してきたのが時効成立後であれば、時効を援用することによって支払いを拒絶することができます。
現在の労働基準法においては、給料と残業代の時効は「請求できる時点から2年」とされています。一方退職金については「請求できる時点から5年」です。
ただ2020年4月からは改正民法が施行され、基本的にすべての債権の時効が「請求できる時点から5年」に統一されます。これに合わせて今後労働基準法も見直され、残業代や給料の時効も5年に引き延ばされる可能性が高くなっています。
3.訴えられたときの対処方法
会社が未払残業代や未払給料、未払退職金の支払い請求をされたら、どのように対応すれば良いのでしょうか?
まず、内容証明郵便による請求書が届いたら、すぐに請求内容を確かめて支払い義務があるのか検討しましょう。タイムカードなどをもとにその従業員の実際の労働時間を確認し、それまでの給与の支払実績と照らし合わせましょう。
義務があるなら支払う方向で話し合いをすべきですし、不当請求なら支払いを拒絶すべきですが、業種によっては労働時間の算定方法が難しい場合や、給与体系によっては残業代の計算が複雑になる場合もありますから、慎重に検討をする必要があります。
話し合いが決裂して労働審判や労働訴訟を起こされたときには、自社に有利になるように、しっかりと法的な主張立証活動を行う必要があります。先ほど述べたとおり、労働時間の算定や残業代の計算は単純ではありませんので、有利になるような主張戦略を立てることが重要です。残業代請求訴訟で負けると上記で説明した高いリスクが発生するので、当初から慎重な対応が必要です。
また、未払い残業代等を請求する労働者は弁護士をつけているケースが多数です。請求を受けた側の会社も弁護士をつけて対応しないと、十分な法的主張ができず、労働審判や裁判で不利になってしまうおそれが高まります。特に、労働関係の裁判の場合、「労働者保護」との観点から、企業側に不利に判断されやすい傾向にありますので、その意味でも弁護士によるサポートは重要です。
当事務所では企業側の労働問題支援に熱心に取り組んでいますので、お困りの際には是非ともご相談ください。