請け負った工事の内容に何も問題がないのに、発注者から途中でキャンセルされてしまう場合があります。この場合に問題となる点を説明いたします。
1 キャンセルを拒絶して工事を継続できるか。
請け負った工事に問題がないのに、発注者から突然キャンセルの申し入れがあった場合に、これを拒絶して工事を継続することができるかという問題があります。
しかし、民法641条では、「請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。」と規定されており、発注者はどのような理由であっても、請負契約をキャンセルすることができることになっています。
したがって、請負業者としては発注者からキャンセルの申し入れがあった場合には、工事を継続することはできず、後は損害賠償によって金銭的に解決するしか方法はありません。
2 契約締結後、工事着工前にキャンセルされた場合
契約は締結したものの、工事が始まる前にキャンセルされてしまった場合、請負業者はどのような損害賠償ができるでしょうか。
まず、請負契約書にキャンセルに伴う違約金の規定があれば、それに従うことになります。
違約金の規定がない場合ですが、この場合に請負業者が発注者に損害賠償請求できる項目の例は以下のとおりです。
①資材や設備をすでに仕入れていた場合には、その代金
(ただし、仕入れた資材や設備を転売した場合には、転売で得た利益は損害額から差し引かれます。)
②下請業者や作業員をすでに手配していた場合には、その費用
(ただし、下請業者と契約をキャンセルして全く費用がかからなかった場合などには損害賠償請求はできません。)
③契約締結までに打ち合わせや設計に要した実費や人件費
(ただし、契約締結までの全ての実費・人件費が請求できるわけではなく、合理的な範囲内に制限される可能性があります。)
④工事が完成したならば得られていたであろう利益(逸失利益)
(請負代金額の5~10%が認められる可能性があります。ただし、特に工事着工前のキャンセルの場合には、この工事をしなくてよくなった代わりに他の工事で利益を得られることがあり、そのような事情がある場合には、減額されたり、請求できなくなったりすることもあります。)
3 工事着工後、完成途中でキャンセルされた場合
この場合も契約書に違約金の規定があれば、これに従って処理をします。
違約金の規定がない場合でも、まず、請負業者がキャンセル時までに行った仕事に相応する代金分(出来高)を請求できることになります。出来高は、工事全体の進捗程度(出来高割合)によって計算することになりますが、工程表や契約書添付の内訳書などを参考にします。ただし、請負業者の利益分までも請求できるかといった問題点もあります。
また、工事には使用されていないものの、すでに発注していた資材や設備があったり、すでに作業員の手配をしていたりした場合には、その費用も請求できる可能性があります。
さらに、請負代金額の5~10%の逸失利益を損害賠償請求できる可能性もあります。
4 発注者からキャンセルの申し入れたあった際の対処方法
工事のいずれの段階であっても、発注者から工事キャンセルの申し入れがあった場合には、書面(メールも可)でその申し入れをしてもらうことが必要です。仮に、口頭での申し入れであった場合、その後、キャンセルの申し入れがあった事実やその時期が問題になる可能性があるからです。
また、可能な限り、キャンセルの理由を明示してもらった方がよいでしょう。請負業者側の問題でキャンセルになるのか、発注者都合なのかで、その後の処理が異なってきますので、発注者都合である場合には、そのことを書面に明示してもらう必要があります。これによって、後日請負業者側の問題であるとの主張を封じることができます。
さらに、キャンセルの申し入れがあった時点で、資材や設備の発注、作業員の手配はすぐにキャンセル・中止すべきです。発注者からキャンセルの申し出が明確にあったにもかかわらず、その後請負業者の怠慢で請負業者が負担する費用が増えてしまった場合には、その増加分については損害賠償請求ができなくなる可能性があります。
また、キャンセル時点での工事の進捗状況・現場の状況を記録するため、写真撮影などの証拠化をする必要があります。後日、別の業者がその工事を引き継いだ場合、出来高の査定が正確にできなくなってしまったり、引き継いだ業者から瑕疵の存在を指摘されたりするおそれがあるからです。