工事の事故やトラブルと対処法

建設工事に関連して、通行人にケガをさせてしまったり、近隣住民に損害を与えてしまったりすることがあります。また、建設工事中の事故によって従業員が死亡・受傷する場合があります。

その具体例と対処方法をご説明します。

 

1 通行人等の第三者にケガや損害を与えた場合

(1)建設工事中に高所から工具を落下させて通行人にケガをさせてしまった、解体工事中に家屋が崩れ隣家の塀を壊してしまったなどという場合、建設業者は不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)を負う可能性があります。

不法行為に基づく損害賠償責任が生じるためには、業者に「故意あるいは過失」があったことが必要であり、もし不可抗力による事故であった場合には業者は責任を負いません。

したがって、事故が発生した場合には、まず業者に「故意あるいは過失」があったかどうかを調査する必要があります。

もっとも、建設工事の場合、不可抗力という主張が認められる事案はあまりないと思います。

 

(2)次に、業者の工事と損害(被害)との間に「因果関係」があるかどうかが問題になります。

高所から工具を落下させて通行人をケガさせたという事案は因果関係が明らかですが、たとえば建設工事によって隣地の地盤沈下(不同沈下)が発生したといった場合には、地盤沈下を引き起こす原因は他にも想定されるため、因果関係があるのかが微妙なケースもあります。このような事案では、専門家の鑑定によって因果関係の有無を調査する必要があります。

 

(3)また、損害賠償によって賠償すべき損害額がどの程度になるかという点も問題になります。

たとえば、通行人にケガをされたといった事故の場合には、治療費・入院費・休業損害・傷害慰謝料・後遺傷害慰謝料・逸失利益といった損害の項目が問題になります。また、隣家を破損したといった事故の場合には、その隣家の修繕費・修繕期間中の宿泊代・引越代(一時退避費用)といった損害の項目が問題になります。

なお、過失相殺が問題になる場合もあります。たとえば、通行人が工事現場に無断で侵入してきた結果として事故が発生した場合には、業者に過失があった場合でも、通行人にも過失があるとされ、損害額が割合的に減額されることもあります。したがって、被害に遭った方に過失となるべき事情があったかどうかも調査をする必要があります。

 

(4)最後に、事故の責任をだれが負うのかという問題があります。

基本的には、工事を担当していた建設業者が損害を賠償する責任を負いますが、たとえば設計に問題があって被害が発生した場合には設計者が責任を負う場合もありますし、また監理に問題があって被害が発生した場合には管理者が責任を負う場合もあります。

また、下請業者が事故を起こした場合であっても、元請業者の指示に問題があった場合などには、発注者としての責任を負う場合もあります(民法716条ただし書き)。

したがって、被害者に対して損害賠償をすべき事案では、建設業者・設計者・管理者・元請業者の責任分担についても検討をする必要があります。

 

2 近隣住民に騒音・振動などの被害を与えてしまっている場合

(1)建設工事中に騒音・振動が発生し、近隣住民からクレームが出された場合、まずは近隣住民に対して、工事によって迷惑を掛けていることを謝罪し、十分に説明し、理解を求めることが先決でしょう。

しかし、近隣住民がそれでも納得しない場合には、近隣住民から工事の差止請求や損害賠償請求がなされることがあります。

 

(2)工事の差止請求は、文字通り工事の中止を求める請求ですが、「工事差止の仮処分」という裁判上の手続で請求をされることが多いです。

仮処分とは、訴訟よりも迅速な手続で行われるもので、裁判所が暫定的な判断を下す手続ですが、差止請求の場合には頻繁に利用される手続です。

損害賠償請求については、「損害賠償請求訴訟」という手続で請求をされることになります。

これらの請求が認められるかどうかの判断基準は、騒音や振動が「受忍限度を超えているかどうか」というものです。簡単に言うと、「常識的に見て、我慢できる範囲を超えているかどうか」という判断基準で判断することになります。

この基準はあいまいな基準ですので、実際には様々な事情を総合的に勘案して判断が下されます。

工事の差止請求が認められるケースはそれほど多くはありませんが、騒音・振動の程度が環境基準や公的規制に違反している、建設業者が騒音・振動の回避努力を怠っている、近隣住民と真摯に協議をしてこなかった、あるいは近隣住民との合意事項に違反したなどの事情がある場合には差し止め請求が認められる場合もあります。

損害賠償請求についても、差止請求と同様の事情を総合的に勘案して判断が下されますが、差止請求よりも認められやすい傾向があります。

 

(3)以上のように、工事の騒音や振動によって工事差止請求や損害賠償請求を受ける恐れがありますので、建設業者としては、騒音・振動をできるだけ抑える努力をするとともに、事前に近隣住民に十分に説明し理解を求めるとともに、苦情が出た場合には迅速に対応するなど、近隣住民と緊密なコミュニケーションを維持する必要があります。

また、近隣住民からの求めがあった場合だけでなく、建設業者の主導により、近隣住民との間で工事協定書を締結することも選択肢として検討すべきでしょう。

 

3 建設工事中に従業員が事故に遭った場合

(1)建設工事中の落下事故など、建設作業に従事する作業員が死亡したり、傷害を負ったりする場合があります。

その場合の責任や対象方法は、次のとおりとなります。

 

(2)まず作業員を雇用している建設業者は、労働契約に基づく安全配慮義務があります。

安全配慮義務とは、従業員の生命や身体の安全を確保するように配慮すべき義務です。

落下事故を防止するための安全帯を付けさせなかった、安全帯を必ず付けるように教育しなかった、落下を防止するための防網を設けなかったなどといった事情があった場合、安全配慮義務違反が認められ、直接の雇用者である建設業者は損害賠償責任を負います。

また、直接の雇用者ではない元請業者も、直接の契約関係はありませんが、信義則上の安全配慮義務を負うとされておりますので、損害賠償責任を負う場合があります。

したがって、作業員の事故が発生した場合には、まず関係業者において、安全配慮義務を尽くしていたかどうかの調査が必要になります。

加えて、直接の雇用者以外の関係業者についても責任が発生する場合がありますので、その責任分担についても検討する必要があります。

 

(3)また、作業員に過失がある場合には、「過失相殺」によって業者の損害賠償責任が減額されることもあります。

したがって、作業員に過失がなかったか否かも調査をする必要があります。

 

無料相談ご予約・お問い合わせ

 

ページの上部へ戻る

トップへ戻る

電話番号リンク 問い合わせバナー